月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
その夜、食卓の上に並んだ温かなスープの皿は、ひとつ分だけ手をつけられぬまま冷めていった。レオナールの席は空いている。
「レオナール様は……?」
問いかけると、セルジュがわずかに目を伏せる。
「外の様子を見に行かれました。すぐにお戻りになるかと」
それ以上は語られない。その沈黙に、エミリアの胸の奥は静かにざわめく。
昼間、レオナールとの距離が少しだけ近づいたように感じたが、変貌した夜の姿を晒すまでではないのだろう。
今夜も夜気は冷たい。しかも相手にしているのは魔獣だ。
その姿を見たことのないエミリアには想像もつかないが、心配でたまらなくなる。
「セルジュさん、レオナール様は大丈夫なのでしょうか?」
一瞬だけ目を見開いたセルジュだったが、すぐに穏やかな表情を戻す。
「ご心配なのですね。ですが、強いお方です。ご安心ください」
エミリアを気遣っているのか、それとも本当に言葉の通りなのか。彼の声は静かで、いつも通りの落ち着きを湛えていたが、その奥にかすかな翳りが見えた気がした。