月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 駆け寄り、その顔を見た瞬間、息を呑んだ。
 銀の髪。月光に照らされた横顔。その瞳の深い蒼が、かすかに揺らめいている。この世のものとは思えないほど美しい顔だった。
 どこかで見たことのある目だったが、誰だろうか。ほんのわずかな時間の間に思考が忙しなく回る。
 そして辿り着いた答えに、自分で首を横に振る。

 (――まさか、そんなはずは)

 エミリアは、その男にレオナールの面影を見たのだ。そしてなにより、彼は街で買った皮の手袋をしていた。
 しかし昼間の、あの穏やかで年老いた彼のものとは違う。それに、目の前の姿は異形ではなかった。
 だが、こんな真夜中にここにいる青年といったら、彼以外にない。

 「……レオナール様、なのですか?」

 震える声でそう問うと、男はゆっくりと顔を上げた。
 苦痛の中でも、彼の瞳は驚くほど静かだった。

 「見つかってしまったか」

 微笑みが、月光に溶けるように淡く浮かんだ。
 その笑みは、たしかにレオナールだった。
 エミリアは躊躇う間もなく、彼の傍らに膝をついた。

 「ひどい傷です。すぐに癒します」

 両手を重ね、祈るように彼の肩へ触れる。白い光が手のひらから流れ出し、血の跡を覆うように包み込む。
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