月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 すると、まるで雪が溶けるように、赤が淡く消えていった。
 この地へ来てからというもの、エミリアは自分の力が少しずつ強くなっていくのを感じている。聖獣のシルバの存在が影響しているのかもしれないと自分なりに考えていた。
 レオナールは目を閉じて、短く息を吐いた。

 「不思議なものだな。キミの手は、冬の終わりの風のようにやわらかい」
 「しゃべらないでください。今は安静に」

 エミリアは胸を熱くしながらも静かに微笑む。治癒を終えると、腕を貸して彼を立たせ、なんとか寝室へ運んだ。
 雪の残る回廊を渡るとき、春の匂いを運ぶ風がふたりの間をすり抜けていく。どこかで氷が砕け、水が流れる音がした。
 ベッドに横たわったレオナールは、穏やかに息を整えながら目を閉じた。
 昼の彼よりもずっと若く、瑞々しいほどに美しい青年の姿。それは年老いた姿の彼と、瞳も声も優しさも、たしかに同じだった。

 「……夜には異形になると聞いていました。違ったのですね」

 レオナールは目を開け、かすかに微笑んだ。

 「異形か……。それを語るには、まだ夜が浅すぎる」

 その答えは、やさしい拒絶でもあった。
 それ以上は問わず、エミリアはそっと毛布を掛け、部屋をあとにした。
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