月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
長い冬も、あともう少し。封印の谷にも間もなく短い春がやって来る。
エミリアがここへ来て二カ月半。一面の銀世界だったミカエル領は、冬などまるでなかったかのようにやわらかな陽が注ぐ時間が増えてきた。
そんな陽を浴びながらも、エミリアの心の奥には悩みがひとつあった。
あの夜以降、レオナールは真の姿を見せてくれるようになり、夕食も一緒に食べることが増えたのはとても喜ばしいのだが……。
彼は変わらず毎夜、命を懸けて魔獣たちと戦っている。それはミカエル領の民のためであるとともに、この地より南にある王都への魔獣の侵入を防ぐためでもある。
この地で幽閉同然の暮らしを強いられてもなお、モルテン王国を守るという使命に燃えているのだ。国から忘れ去られた存在でありながら。
そうして彼が戦っている間、エミリアは祈りを捧げることしかできない。
(せめて、私にもなにかできることがあれば……)
暖炉の前で祈りを終えたあと、そんなことを考えていると、外からカーリンの声が聞こえた。
「エミリア様! ちょっと来てくださいませ!」
慌てた様子に、裾をつまんで駆け出すエミリアの後ろをシルバが素早く追いかける。
庭へ出ると、雪解けの土の上に小さな白い生き物が倒れていた。丸い体に長い耳、そして金色の瞳。うさぎに似ているが、その毛並みは淡い光を帯びている。