月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 神殿と王権の均衡を保つための古い掟。ゆえに彼の意思とは無関係に、結婚相手が決まった。
 その名を聞いたとき、ルーベンはただ、冷たく笑った。
 〝聖女エミリア〟神に愛された女。父が敬い、民が崇めた存在だ。
 この世に神などいないのに。
 本当に神が存在するならば、第一王子の自分がこれほど惨めな思いをすることはなかったはずだ。
 レオナールとて同じ。あれほど父に愛された彼は呪われた。
 神がいれば、どちらも起こりようはないだろう。つまり、神はいない。
 しかしルーベンの鬱屈した思いとは裏腹に、神殿主導のもとエミリアとの結婚は粛々と進んでいく。
 そうしていよいよ婚礼の日、神殿の鐘は長く鳴り響いた。
 花の香る聖堂で、彼女は静かに祈りを捧げていた。その姿は祝福ではなく、赦しを求めているように見えた。
 ルーベンは誓いの口づけさえ拒絶した。彼女のまつげの震えを見逃さなかったのだ。
 彼女は自分ではなく、忌々しい神に仕えている。
 そんな女と体を重ねるなど、とうてい無理だと寝所をともにすることも拒み続けた。
 そうだというのに、慎み深いつもりか、エミリアはそんなルーベンを決して責めなかった。それどころか、王太子妃としての務めを怠ることもない。
 非の打ちどころのない彼女は民に慕われ、神殿は彼女の存在によって王権と結びついていた。
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