月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
ルーベンが夜ごと酒をあおり、言葉少なく沈黙の中に立ち尽くしているとき、静かに盃を差し出したのはいつもバネッサだった。
彼女は慰めを語らない。ただ沈黙を受け入れる術を知っていた。それが、エミリアにはできないことだった。
いつしかルーベンは、バネッサの手を求めるようになっていた。その手には神の祝福も、祈りの光も宿っていない。だが、その〝穢れなさ〟が救いだった。
祈りを知らぬ唇が自分の名を囁くたび、ルーベンは初めて人間として愛されている錯覚に包まれた。
『陛下、光など要りません。闇の中のほうがあなたは美しい』
その言葉に、ルーベンは初めて微笑んだ。
しかしその微笑の奥で、崩れはじめたものがあった。
神殿を封じ、聖女を追放してまで手に入れた王の座は、いつしか空洞のように虚ろになっていた。
背後で衣擦れの音がした。バネッサが近づき、銀の杯を差し出す。
エミリアと離縁した今、バネッサはルーベンの妻であり王妃である。
「また夜更けまで起きておられるの? 陛下」
「……静かにしていろ」
杯を受け取り、赤い酒を口に含む。舌に残る鉄のような味が、妙に血を思わせた。
「あなたは正しかったわ」
バネッサの声が甘く流れる。
「神殿の連中はもう王に逆らえない。誰も陛下に意見しない。あなたの時代が来たのよ」
彼女は慰めを語らない。ただ沈黙を受け入れる術を知っていた。それが、エミリアにはできないことだった。
いつしかルーベンは、バネッサの手を求めるようになっていた。その手には神の祝福も、祈りの光も宿っていない。だが、その〝穢れなさ〟が救いだった。
祈りを知らぬ唇が自分の名を囁くたび、ルーベンは初めて人間として愛されている錯覚に包まれた。
『陛下、光など要りません。闇の中のほうがあなたは美しい』
その言葉に、ルーベンは初めて微笑んだ。
しかしその微笑の奥で、崩れはじめたものがあった。
神殿を封じ、聖女を追放してまで手に入れた王の座は、いつしか空洞のように虚ろになっていた。
背後で衣擦れの音がした。バネッサが近づき、銀の杯を差し出す。
エミリアと離縁した今、バネッサはルーベンの妻であり王妃である。
「また夜更けまで起きておられるの? 陛下」
「……静かにしていろ」
杯を受け取り、赤い酒を口に含む。舌に残る鉄のような味が、妙に血を思わせた。
「あなたは正しかったわ」
バネッサの声が甘く流れる。
「神殿の連中はもう王に逆らえない。誰も陛下に意見しない。あなたの時代が来たのよ」