月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 彼女はそのまま彼の肩に触れる。だが、ルーベンの瞳は遠くを見ていた。
 訪れるはずの心の静寂はなく、耳の奥で鐘の音がする。頭の中で白い光が揺らめいた。

 (誰かの祈りか……?)

 ふと窓の外に目を向けると、北の方角――ミカエル領の空がかすかに光った。
 雷か、それとも……。

 (まさか、あの女の祈りの光か――)

 胸が軋むように痛んだ。

 「……エミリア」

 その名を呟いた瞬間、バネッサの手が止まった。赤い唇が冷たく歪む。

 「なぜ、その女の名を」
 「黙れ」

 ルーベンは短く吐き捨て、杯を床に投げつけた。
 砕けた硝子の上に、赤い酒が滲んでいく。
 なぜだ。彼女を追放したのは、自分だというのに。
 なぜ、あの光だけが、今も自分の中で消えない。まるで、自分の罪を照らすために灯っているようではないか。
 ルーベンは窓辺に手をつき、闇の向こうを見つめた。
 遠く、雪解けの風が吹いている。あの北の果てで、エミリアは今どうしているのだろう。
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