月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 (――いや、なにを感傷に耽っている。エミリアを追放し、私は救われたはずだ。レオナールとともに沈黙の谷に沈めたのだ。もう恐れるものはなにもない。そうだ、私は間違っていない……!)

 不意にバネッサがルーベンを背後から抱きしめる。

 「陛下、私がいるではないですか。それで十分でしょう?」

 バネッサの声は絹のようにやわらかいのに、どこか冷たい。彼女の腕が、ゆっくりとルーベンの胸を締めつける。

 「十分、か」

 ルーベンはわずかに笑った。その笑みには、疲労と嘲りが入り混じっていた。

 「お前の言う『十分』は、なにを指している。国か、私か」

 バネッサは小さく息を吐いた。

 「どちらでも構いません。あなたが王である限り、私はあなたに仕えます。けれど私は信じています。あなたが神に選ばれたのではなく、自らの手で王となった人間だからこそ、この国は生き延びるのだと」

 その言葉に、ルーベンは目を細めた。

 〝神に選ばれた〟

 その響きが、耳に刺さる。エミリアを、レオナールを、思い出す。
< 67 / 224 >

この作品をシェア

pagetop