月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません

 夜明け前、王宮の鐘が低く鳴る。報告が届いたのはそれからまもなくのことだった。

 「陛下、魔獣は討伐されました!」

 膝をついた近衛長の額には、まだ血の滲む傷があった。

 「第一小隊が郊外の森にて発見。獣の体は損傷が激しく、正体の特定は困難ですが……討伐は完了しております」

 ルーベンは玉座に腰かけ、短くうなずいた。

 「死傷者は?」
 「三名負傷、うち一名が重傷。民間への被害は最小限に抑えました」
 「よくやった。引き続き周辺を警戒せよ。魔獣の痕跡を徹底的に調べ、どこから侵入したのかを報告しろ」
 「はっ!」

 騎士が退室すると、部屋に静けさが戻った。
 ルーベンはふと、窓の外を見やった。薄明の空がわずかに白み、城下町の屋根がかすかに浮かび上がる。
 胸の奥がかすかに疼いた。神殿を封じたあの夜以来、初めて感じる胸騒ぎだった。

 「陛下」

 艶やかな声が背後から届く。振り返れば、バネッサが緋色の衣を纏い、杯を手に立っていた。
 夜の装いが、彼女に不思議な艶を与えている。
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