月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 「夜通し働かれて、お疲れでしょう。少し気分を変えませんか?」
 「……気分を変える?」
 「ええ、そう。久しぶりに、宴を開きましょう。魔獣を退治し、王都に平穏が戻った祝いとして」

 バネッサはゆるやかに歩み寄り、ルーベンの膝元に手を添えた。

 「皆、少し怯えているのです。神殿が沈黙してから、街の空気が冷たくなってしまった。だからこそ、王と王妃が微笑み合う姿を見せてあげるのです。〝新しい時代は、もう恐れるものなどない〟と、ね」

 ルーベンは沈黙したまま杯を見つめていたが、唇をわずかに緩ませる。

 「……ふん、お前らしい考えだ」

 バネッサは楽しげに微笑む。だが、その瞳の奥には薄い炎が揺れていた。

 「それと、招待したい方がいますの」
 「誰だ」
 「もちろん、エミリア様よ」

 その名を聞いた瞬間、空気がぴんと張り詰めた。
 バネッサは構わず言葉を続ける。

 「彼女を北方から呼びましょう。聖女の称号を剥奪された今、ただの女に過ぎません。その彼女に、王妃となったわたくしが慈悲を示す。それはきっと、王としての威光を示す好機でもあります」

 ルーベンは目を細め、無言で彼女を見た。そして低く笑う。
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