月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 ***

 朝靄が城の塔を包み、白い光がゆっくりと石壁を照らしていく。城の周りには小さな水の流れがいくつも生まれていた。
 長い冬は終わりを告げた。
 エミリアは朝食のあと中庭で祈りを終えると、手にした水差しを掲げて空を見上げた。
 空の色は淡く、氷のような青。風はまだ冷たいが、その中に芽吹きの気配があった。
 すぐそばにいるシルバもエミリアを真似て空を見た。

 「まあ! シルバも祈りを捧げているの?」

 カーリンが足取りも軽く近づいてくる。

 「ええ、そうなの。シルバも立派な聖なる遣いだわ」
 「そうですね。シルバ、おりこうね」

 カーリンがシルバの頭を撫でると、シルバは目を細めて喉を鳴らした。エミリアにだけでなく、すっかりこの城の人たちに懐いている。
 治療院を設けてからというもの、毎日いろいろな聖獣がやって来てはエミリアの癒しを受けている。中には森に帰らず、居座る聖獣もいて、城は賑やかになった。
 リスに似たラタトスクはここへ来て一週間になるが、仲良くなったシルバの背中に乗るのがお気に召したよう。今もエミリアのそばにシルバと来ては、じゃれついてくる。

 「こらこら、今こっちの子の治療をしているのよ? 遊ぶのは待ってね」
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