月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 脚を怪我したミミナに手をかざすエミリアを興味津々に眺めながら、ラタトスクはふさふさのしっぽをぴんと伸ばした。
 こうして治療して聖獣たちの聖なる力を強め、人間界への魔獣の侵入を防げれば、レオナールの負担も少なくなる。
 そう願って、エミリアは自分のできることをするだけだ。
 ふと、馬の蹄の音が道を踏みしめて近づいてくるのが聞こえてきた。
 シルバとラタトスクが耳をぴくぴくと動かす。

 「殿下、王都からの使者が参っております」

 駆け込んできたセルジュが、息を弾ませながら報告した。
 少し離れた場所に置かれた椅子に腰を下ろしていたレオナールは、わずかに眉をひそめた。

 「王都からの使者だと?」

 この地には王都から使者が訪れることはめったにないと聞いている。
 杖を突きながら歩くレオナールに寄り添い、エミリアも玄関広間へ向かう。すると鎧を着込んだ伝令が跪いていた。
 深紅の封蝋が押された封書――王印付きの正式な文――を手にしている。
 差出人の名を見た瞬間、レオナールの瞳が細く光った。

 「……ルーベン王」

 使者が恭しく頭を下げ、封書を差し出す。老いたレオナールを見て、かっと目を見開いてから素早く逸らした。
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