月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 春の陽光が、薄氷のように脆く砦を照らしている。

 「行かれるのですか?」
 「……行かねばなるまい」

 レオナールの瞳には、決意と少しの陰が宿っていた。

 「兄上が仕掛けた宴が、ただの祝宴であるはずはないが」
 エミリアは静かにうなずき、胸の前で祈りの印を結んだ。

 なにかよくないことが起こるかもしれない。しかし王命に背くことはできない。
 窓の外では、解けた雪が水となって流れ出している。その流れの音が、まるで遠い王都からの呼び声のように聞こえた。
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