月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません

 その夜、エミリアはベッドに宴用のドレスを広げていた。といっても、並べられた服はわずか三着。どれも王都を去るときに持ち出せた、数少ないものだった。
 淡い桃色のドレスは袖口が擦れており、薄青のものは長旅の砂をいまだに落としきれていない。白の礼服だけが比較的まともな状態だったが、それももう古い。

 「どうしましょう……」

 立派に着飾る必要はないにせよ、王宮で開かれる祝宴となれば相応のものは必要だ。

 (私の癒しの力でどうにかできればいいのに)

 小さく息をつき、エミリアが裾のほつれを指でなぞっていると、カーリンが湯気の立つお茶を持って入ってきた。

 「まあ、これはまた悩ましい光景ですね」
 「なにを着ていったらいいのかしら」
 「そうですねえ……」

 カーリンは顎に手を添え考えるようにしてから、ぱっと目を輝かせてエミリアを見た。

 「殿下に相談してみてはいかがでしょうか」
 「レオナール様に? だけど、お手を煩わせるわけにはいかないわ」

 ただでさえ魔獣の討伐で疲弊している。そのうえドレスの心配までさせたくはない。
 ちょうどそのとき、廊下の向こうからゆったりとしながらも確実なリズムの足音が聞こえてきた。
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