月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 その笑みは、昼間には決して見られない輝きに満ちていた。

 「でも、そんなことをしたらご迷惑を――」
 「迷惑ではない。むしろ、私の望みだ」

 言葉を遮り、レオナールがエミリアに一歩近づく。
 そうして近くに立たれるだけで、彼の放つ静かな魔力と体温が伝わるよう。

 「街にいい仕立て屋がいる」
 「そうなのですか」
 「ああ。日数はまだあるから城へ呼び、最高のドレスを作らせよう。宴の席でどんな眼差しを受けようと、誇りをもって立てるように」

 その声音に、決意と慈悲が混じっているように聞こえる。
 エミリアはその言葉を聞きながら、体じゅうにあたたかなものが満ちていくのを感じていた。
 単にドレスのことを言っているのではない。レオナールの声には、彼自身をも奮い立たせるような力があった。

 「ありがとうございます、レオナール様」

 エミリアは深く頭を下ると、レオナールは短く息をついて微笑んだ。

 「決まりだな。明日にでも仕立て屋を呼ぼう」

 その瞬間、窓の外を春の風が通り抜けた。
 白いカーテンがふわりと揺れ、蝋燭の炎が小さく揺らめく。
 その光の中でレオナールの銀髪は夜の星を纏ったように輝いた。
 エミリアは胸の奥でそっと祈る。
 ――どうか、この穏やかな時間が壊れませんように、と。
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