月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
翌日の午後、仕立て屋が城へやって来た。
ミカエル領で一番の腕を持つ職人らしく、背筋の伸びた老婦人は持参した反物をずらりと並べると、真剣な眼差しでエミリアを見つめた。
「殿下からうかがいました。春の宴にふさわしい一着を、とのことですね」
「ええ、どうぞよろしくお願いします」
エミリアが軽く頭を下げると、老婦人はにっこりと微笑んでうなずいた。
応接間には光が射し込み、やわらかな空気で満ちている。レオナールはその一画で椅子に腰をかけていた。
昼の彼は、瞳だけは夜と変わらず深い蒼を湛えている。老いた容姿に似つかわしくないほど威厳があり、同時に優しい光を宿していた。
「殿下、こちらの布などいかがでしょう?」
カーリンが嬉々として、薄藤色の反物を広げる。
「まあ、素敵……!」
エミリアは思わず声を上げた。春風のように淡く、見る角度によって銀の糸がきらりと光る。
「この色は、殿下の瞳にもよく映えますね」
セルジュがからかうように言うと、レオナールは軽く咳払いをした。
「……エミリアが着るものだ。私のことは考えずともいい」