月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 その声音は落ち着いているのに、どこか照れくさそうでもある。
 エミリアはふと笑みをこぼした。老いた姿の彼が、若者のように見える瞬間だった。

 「殿下、こちらもご覧くださいませ」

 老婦人が取り出したのは、新緑の色をしたベルベット地だった。

 「これは森の若葉を思わせますね。エミリア様の瞳にもぴったりです」
 「素敵ですけれど……ちょっと落ち着きすぎてしまうかしら?」
 「では、胸元に白銀の刺繍を入れてはいかがでしょう。殿下のお色と対になるように」

 その言葉に、エミリアは小さく息を呑んだ。
 殿下の色と対――。彼との繋がりを感じて急に鼓動が速くなる。

 「それがいい」

 レオナールが静かに言った。

 「彼女には、春の光のような色が似合う」

 穏やかな笑みを浮かべエミリアを見つめる。目が合った瞬間、エミリアは胸がきゅっと縮まる思いがした。
 彼の目には、自分が〝王都から追われた女〟ではなく、〝今ここにいるエミリア〟として映っている。その事実が、ただうれしい。

 「ではこの布で仕立てましょう」
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