月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 そんな彼女を見て、カーリンが口元を押さえて小さく笑う。

 「お美しいですよ、エミリア様。まるで春の花のつぼみのようですわ」
 「からかわないで……」

 苦笑しながら目線を上げると、レオナールと鏡越しに目が合った。なんともいえず照れくさくて、咄嗟に目を逸らす。

 (レオナール様に見られていると思うと緊張してしまうわ……)

 続けて老婦人が布を胸元に滑らせるようにして形を整える。淡い緑の反物が光を受け、きらりと銀の糸が浮かび上がる。
 それを見つめながら、レオナールがゆっくりと口を開いた。

 「……その色を纏えば、どんな宮殿の光よりも美しいだろう」

 その声が部屋の空気を甘く震わせる。
 老婦人は手を止め、カーリンとセルジュは顔を見合わせる。
 エミリアは、鏡の中の自分が一瞬にして紅潮していくのを感じた。

 「そ、そんな……レオナール様、言いすぎです……!」
 「いや、事実を言っただけだ」

 レオナールは目を細め、ほんのわずかに微笑む。
 老いた顔に刻まれた皺のひとつひとつが、その笑みをより深く、温かく見せていた。
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