月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 「レオナール様……」

 呼ぶ声が自然とやわらかくなる。
 彼の顔に刻まれた皺は、春の日差しのように穏やかだ。

 「私、ここへ来てから、初めて誰かの力になれていると感じるのです。レオナール様の傷を癒したり、聖獣たちの治療をしたり。王都では毎日孤独でした」

 ぽつりと呟いた言葉をさらに紡いでいく。
 ただ祈りの連続。神殿の白い壁に囲まれて、朝から晩まで人々の平安を願う。だが、その祈りが誰かに届いているのかどうかさえ、わからなかった。
 ルーベンは、エミリアに見向きもしなかった。聖女として迎えられても、側にいる理由を与えられたことはなかった。
 言葉を交わすこともなく、手を取られることもなく、ただ王家の祈りの象徴としてそこに置かれていただけ。
 光溢れるはずの王宮の中でエミリアの居場所だけがひどく冷たく、静まり返っていたのだ。

 「ここでは心の底から温かいものが満ちてくるのです」

 それはとりもなおさず、レオナールのそばにいるからこそ。
 言葉にしながら、エミリアの頬を小さな涙が伝う。
 レオナールはその雫の行方を指先で追い、そっと拭った。

 「祈りは形を変えるものだ。王都では届かずとも、ここではたしかに誰かを癒している。……私もそのひとりだ」
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