月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 「このあたりはもう王都の領内ですか?」
 「ああ、境は越えた。明日には都の塔が見えるだろう」

 レオナールの声は穏やかで、どこか懐かしげだった。
 その横顔にほんの一瞬、痛みのような影が差す。

 「レオナール様」
 「ん?」
 「昼の姿で、道中お疲れではありませんでしたか」

 彼は静かに首を横に振った。

 「心配いらない。少しばかり骨が軋む程度だ」

 軽く笑う声の裏に、かすかな寂しさが混じっていた。
 その笑みを見て、胸が締めつけられる。この人の背負う痛みを癒せたら。そう思わずにいられない。
 しかしこの呪いは、ただの傷ではない。どうしたら解くことができるのか。答えの出ない問いはエミリアの心の中でずっと渦巻いていた。
 レオナールがふと足を止める。草の上に舞い落ちた花びらを拾い上げ、指先でそっと弄ぶ。

 「王都に戻れば、いくつもの視線が待っている」
 「ええ」
 「それでも、エミリアが笑っていられるようにしたい。どんな場でも」

 静かな声は風よりも優しかった。
 エミリアはその言葉を胸に受け、目を伏せる。

 「私も、レオナール様が笑っていてくださるなら、それで十分です」
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