月夜の呪われ王子と追放王妃~力のない聖女などいらないと厄介払いしたのをお忘れですか? 辺境の地で幸せを掴みましたので、今さら謝られても戻りません
 そう言ったとき、春の風がふたりの間をすり抜けた。
 銀の髪が流れ、レオナールが微笑む。
 その笑みを見ながら、この夜が永遠に続けばいいのにと願わずにはいられない。レオナールと過ごすたびに、そんな願いがエミリアの心をかき乱す。

 (……私、レオナール様が好き)

 その思いが胸の中で形を持った瞬間、世界の色が変わった気がした。
 夜空の群星も、彼の横顔を照らす月光さえも、すべてが美しくて胸が痛い。
 レオナールの声を聞くたびに、老いた姿を見送るたびに、そしてこの若き夜の姿を見るたびに、心がただ彼を求めてしまう。
 それは王太子妃として過ごした日々にはなかった感情だ。あの冷たい宮殿では、誰かに想いを寄せるということを忘れていた。
 与えられた笑みを浮かべ、空虚な祈りを捧げ、決められた役を生きてきた。
 でも今は違う。レオナールのもとでは、ただエミリアとして息をしている。
 老いた姿であろうと夜の姿であろうと、彼は同じ人。この胸を満たす温かさは、外見の違いなど関係ない。
 そんな想いに気づいたとき、涙が滲みそうになった。
 彼の抱える痛みも長い孤独も、すべてを抱きしめたくなる。

 「どうした?」

 レオナールが小さく首を傾げる。
 夜風が銀の髪を揺らし、彼の瞳が焔のように瞬いた。
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