あなたとは合わないと思っていたけれど
 香澄の実家は地元の大地主だったいうこともあり、日頃からやたらと来客が多く落ち着かなかった。そのうえ両親は厳格な性格で、香澄を含む子供に対してとても厳しく過干渉だった。
 だらだら過ごすことなんて許されず、常に家の手伝いや勉強を強いられ息が詰まるような日々を送っていた。同級生が遊んでいる時間でも怠けるのは許されず『ぼんやりしないで背筋を伸ばして』と常にきちんとしていることを要求され続けた。学校や習い事で毎日スケジュールがぎっしりだった。

 香澄が家で自由に過ごしたいと強く思うのは、生来の性格だけでなく、そんな子供時代の反動もあるのかもしれない。
 ペットボトルの蓋を開けて、アイスティーを一気に飲む。

「あー美味しい」

 風呂上がりはやっぱり冷えた飲み物だよねと満足しつつ、室内を見回す。
 食事用の丸テーブルに、テレビ台とローテーブルと家具は控えめだ。今座っているビーズクッションが一番面積を取っているかもしれない。続き部屋の寝室にはセミダブルのベッドとパソコンを使ったりメイクをする小さなデスクがある。どちらの部屋にも床にふわふわしたラグが敷いてあり、基本的にまったり過ごすのに特化した部屋になっている。香澄が心からリラックスできる憩いの場だ。

「そろそろ模様替えをしようかな」

 充分満足している部屋だが、ときどき気分転換も必要だ。元気があるときに考えよう。

 左手でアイスティーを飲みながら、右手でリモコンを取りテレビをつける。テレビ放送を見ることはあまりないけれど、動画配信サービスで映画を見るのが香澄の趣味のひとつだ。
 映画館で見る方が迫力と臨場感があっていいと言う人もいるけれど、香澄は自宅でのんびり見るのが好きだ。

「今日は何を見ようかな~」

 独り暮らしを始めてから、独り言が増えたかもしれない。
 少し迷ってから、海外のミステリーものの映画を選ぶ。せっかくなのでルームライトを落として雰囲気を盛り上げる。

「あれ、この俳優、さっき会った天谷さんに似てるかも」

 海外俳優と間違うくらい華やいだ雰囲気の人だった。みんなが憧れる気持ちがよく分かる。

「まあ、もう会う機会はないだろうけど」

 それよりも母からのお見合い攻撃をなんとかしないと。

 母との会話を思い出すと気持ちが沈んでいく。

 けれど映画に集中しているうちに、心の中の蟠りは消えていた。

 悩みがあっても気持ちを整えることができる。やっぱり自分にはこの環境が必要だと強く思った。
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