あなたとは合わないと思っていたけれど
《先方もあなたのことを気に入ってくれたようなの。話を進めるから、次の休みに帰って来なさい》
せっかくリフレッシュしたというのに、翌日から再び母のお見合い攻撃が始まった。
母ははっきり断っても聞き入れず、怖いほどの強引さで縁談を進めようとする。
どうやら今回のお相手は余程母の好みに当てはまるらしい。絶対逃さないといった気迫を感じる。拒否しても二日置きに電話が鳴りもう五日目。
(ストレスで病気になりそう。着信拒否してもいいかな?)
しかしそんなことをしたら、山梨からやって来るかもしれない。自宅で騒がれるのは電話を我慢するよりも嫌だ。
香澄はずきずきと痛む頭を抱えながら、オフィスを出て駅に向かう。寒さに耐えかねてコートのボタンをはめたとき、背後から思いがけずに声をかけられた。
「西條さん」
「え……天谷さん?」
声をかけてきたのは先日菜恵と食事をしたときに会った、天谷武琉副操縦士だった。
香澄よりも二十センチ高い長身に黒いウールのコートがよく似合っていて、パイロットというよりモデルのようだ。そこにいるだけでとても目立っている。
「お疲れさまです」
彼がここにいることと、香澄に声をかけてきたこと両方に内心驚きながらも、香澄は笑みを浮かべた。
「お疲れさま。西條さんは今帰りなんだね。俺は本部に用があって寄ったところなんだ」
武琉がとても自然に香澄の隣に並ぶ。なんとなくふたりで駅に向かうことになった。
「西條さんはいつもこの時間に終わるの?」
「日によって違います。残業で遅くなる場合もありますし」
「そうなのか。今日は残業なしみたいだけど、このあと予定が?」
「いえ、真っすぐ帰るつもりですよ」