あなたとは合わないと思っていたけれど
 武琉と縁を切ると想像すると、胸を鋭く差されたように苦しくなる。

 以前のように彼と無関係になって、平気でいられるとは思えない。

 引きこもりの香澄を理解し尊重してくれる寛容さに、救われた気がした。

 仕事に対して真摯で目標に向かって努力する姿を尊敬した。

 人との縁を大切にできる彼を見て、自分もそうなれたらと感化された。

 目を閉じると彼の笑顔が浮かんでくる。

 早織から香澄を庇ってくれたときの、頼りになる広い背中――あのとき香澄は確かにときめいていた。

(いつの間にか、武琉さんを好きになってた)

 契約結婚の立場では、最も避けなくてはならないことなのに。

 それでも芽生えた想いを消すことはできない。

(好きになっちゃったんだから、仕方ない)

 彼に気持ちを押し付けたり、しつこくするのは駄目だけれど、心の中で想うのは香澄の自由だ。

 告白してこの結婚を壊す気はない。武琉と穏やかに過ごせたら、それで十分だ。

(でも、態度に出たらどうしよう)

 恋愛方面で器用に立ち振る舞う自信なんて、まったくない。

 武琉にすぐにばれてしまうのではないだろうか。

 香澄はしばらく悩んでから、開き直った。

 こればかりは考えてもどうしようもない。

 香澄にできるのは、契約結婚を最後まで続けること。

 今は早織への対処に集中しよう。

 と言っても、香澄はもともと家からあまり出ないし、仕事中に気をつけていれば早織との接点はないかもしれない。

(家で過ごしていれば大丈夫)

 香澄は気持ちを整理すると、より一層の居心地の良さを求めようと大掃除を始めた。

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