あなたとは合わないと思っていたけれど
「仕事なの」
「休みなのに大変だな」
「土日休みの仕事じゃないんだ」
「なるほど。それじゃあ彼への挨拶はまた今度にしよう」
彼は義父と仕事上で関わりがあるようなので、武琉ともしっかり挨拶をして礼儀を通したいのかもしれない。
「私から話しておくよ?」
「そうだな。直接挨拶をしたかったけど、余計な手間で迷惑になるかもしれない。悪いけど頼むよ」
英二は少し悩んでから言った。
「この前も聞こうと思ったんだけど、北山君ってなんの仕事してるの?」
「二年前にAI関係の会社を立ち上げたんだ」
「自分で? すごいね」
かつての同級生が社長として頑張っているなんて感慨深い。
「ようやく余裕が出てきたから、会社近くに引っ越そうと思って、物件を探して見つけたのがここ」
たしかにこのマンションは設備がよく駅までのアクセスもいい。住人は経営者など裕福な人が多いようで落ち着いた雰囲気だ。セキュリティ面もしっかりしているので英二が気にいるのも分かる。
「会社はこの近くなの?」
「そう駅前のオフィスビルに、ワンフロア借りてるんだ」
英二が言った駅は、マンションから二駅先のところだった。
「通勤楽になるんじゃない?」
「そうなんだよ。これで会社に泊まり込むのが減るかもしれない。自転車通期もできるし、生活が変化しそうだ」
「自転車? 遠すぎない?」
「二駅くらい余裕だよ」
「そう言えば高校の頃も、いつも自転車で移動してたよね」
懐かしい思い出話などを少し話してから、英二は帰って行った。
部屋に戻り時計を見ると三十分も経っていた。元同級生ということもあり、つい話し込んでしまう。
(北山君がご近所さんでよかった)
ここの生活は不便はないけれど、武琉は不在がちだし、そんな中で災害など予想できないトラブルが遭ったとき、近くに知り合いがいないのは心細いと感じるときもあった。
気楽に連絡が取れる相手がいるのは心強い。
香澄は上機嫌で部屋に戻り、梅酒つくりで散らかったキッチンを片付けた。