あなたとは合わないと思っていたけれど

 ◇◇
 
 羽田空港内にあるASJの運行管理部で、武琉はパソコンの画面を眺めていた。

 武琉は今日はスタンバイ(急な欠航やパイロットの病欠の際の交代に備えて空港内で待機する)勤務で、待機時間を航空法改正についての勉強に当てるつもりでいた。

 ところがデータにアクセスしてもテキストを手に取っても、身が入らず集中力が続かない。気づけばぼんやりと画面を眺めていて、はっと我に返ることを繰り返していた。

 そんなとき、渋谷機長が声をかけてきた。

「香澄さんと喧嘩でもしたのか?」

 武琉は一瞬真顔になってしまったが、すぐに笑顔をつくった。

「まさか、彼女とは仲良くやってますよ」
「そうか? その割にはさっきからため息を吐いてるぞ」

 渋谷機長はそう言いながら、武琉の隣の席に腰を下ろした。

「悩みがあるなら相談に乗るけど?」
「ありがとうございます。でも本当に順調ですのでご心配には及びません」

 武琉は今度は余裕の笑みで答えたので、渋谷はそれ以上は何も言わずに、話題を仕事の関係に変えた。
 
 とくに問題なくスタンバイを終えた武琉は、空港を出て電車に乗った。

 香澄にはフライトにならなければ、七時過ぎに帰宅すると伝えてある。

 武琉はどこにもよらず真っすぐ帰路に着く。途中、友人から誘いの電話が入ったが断った。

 以前は急な誘いでも柔軟に応じていた。友人との交流は楽しいし、人脈を広げて大切にするのは自分の為にもなるからだ。
 しかし最近の武琉は予定通りに帰宅するのを優先している。

 初めはなるべくスケジュール通りに行動するのが、共同生活を始めたうえでのマナーだと考えていた。
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