あなたとは合わないと思っていたけれど
九章 思いがけないキス

 香澄は新たな悩みを抱えていた。最近、武琉との関係が上手くいっていない。

 言い争いをしたわけでもないし、何かきっかけが有った訳でもない。

 それなのに武琉の態度が、以前よりも素っ気ないしぎこちない。

 契約結婚をスタートさせてからずっと順調だったのに、なぜこんなことになったのだろうか。

(私、なにか怒らせるようなことをしちゃったのかな?)

 でも全く覚えがない。彼は香澄の適当で締まりのない生活を見知っても何も文句を言わなかった。だらしなくリビングで居眠りをしても、寛容に「ゆっくりしていて」と言うような人だった。

 そんな彼の態度が変わってしまった理由が分からず、香澄は悩み落ち込んでいた。

 自分が彼を怒らせてしまったのだろうか。それなら謝罪をしようと思ったが、何に対して怒っているのか分からないのに謝るのは逆に失礼だろう。

 そもそも彼の態度が変わったと言っても、香澄に対して何か文句を言う訳ではない。怒っているということ自体が、香澄の勘違いかもしれないのだ。

 香澄たちの関係は契約結婚。これまでが仲良すぎただけで、今が本来の形なのかもしれない。

 でも香澄はそんなのは嫌だと強く思う。

 一度楽しい時間を知ってしまった香澄は、以前のようにドライな関係を受け入れるのが難しい。

(ひとりの時間が好きだったはずなのに)

 今は武琉がいないと寂しいし、不安にすら感じる。

 嫌われてしまったのかと、居ても立っても居られない気持ちになる。
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