あなたとは合わないと思っていたけれど
 続いて上がった名前は共通の同級生のもので、香澄は大分前に疎遠になってしまった相手だった。英二の説明では、航空会社について個人的に取材をしたいとのことだ。

《最近、WEB小説を書いてるらしくてさ、参考にしたいんだって》
「そうなんだ。いいけど、私の仕事は普通の会社とあんまり変わらないと思うけよ」
《それも伝えておく》
「みんなで飲んでたの?」

 参加した経験はないが、元同級生のコミュニティがあるのは香澄も知っていた。

《うん。香澄も今度顔を出したら? 結構楽しいし、みんなも喜ぶと思う》
「えー私のこと覚えてる人の方が少ないでしょ」
《そんなことないって、香澄人気があるし》
「ふふ……さすがにそれはないって分かるから」

 香澄が苦笑いをしたのと同時に、がたんと何かが倒れる音がした。

 はっとして音がした方を見る。どうやら武琉がローテーブルに並んでいたワインボトルを、落としてしまったようだ。
 赤い液体がじわりと床に広がっていく。

 武琉が屈んで床を拭こうとしている姿を見て、香澄は慌てて電話を切った。

「武琉さん、私がやるから」

 ワインボトルの蓋をしっかり締めずに、テーブルの端に置いたのは香澄だ。

 重厚なウオールナットのフローリングに、ワインが染み入っていく。

 武琉の表情は険しく、香澄はひやりとした者を感じた。

「ごめんなさい、床を汚しちゃって」
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