あなたとは合わないと思っていたけれど
 大らかな武琉もさすがに怒ってしまったのだろう。

 ドキドキしながらも、大急ぎでキッチンに布巾を取りに行こうとする。

 そのとき、武琉の大きな手が香澄の手首をつかんだ。

「え?」

 突然のことに、香澄は驚き床に向けていた視線を上げて武琉を見つめた。

 彼の眼差しは強く、まるで香澄の内面を見透かそうとしているかのようだと感じた。

「……武琉さん?」
「今の電話、北山英二からだろう?」

 武琉の声がいつになく低く重かった。

「うん、そうだけど」
「ずいぶん仲が良さそうだな。いつもこんなふうに連絡を取り合ってるのか?」
「いつも?……そんなことないけど」

 英二からはまれにメッセージが届くが、電話を貰うことは殆どない。

(どうしてそんなことを聞くんだろう)

 彼は香澄がワインボトルをしっかり置いてなくて、床を汚しただらしなさを怒っているのではなかったのだろうか。

 戸惑い無意識に身動きをした香澄は、零れていたワインに足を滑らせて倒れそうになってしまった。

「きゃあ!」

 しかしすぐに武琉の腕が背中に回り、倒れないように抱き留めた。

「ありがとう……」

 ほっとした瞬間、武琉との距離があまりに近い状況に気が付いた。

 近距離で見つめ合う形になり、たちまち心臓がどくんと跳ね、気まずさが全身を巡っていく。

「あ、あの……」
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