あなたとは合わないと思っていたけれど
 その声が聞こえた瞬間、出なければよかったと後悔した。黙り込んだ香澄の耳に甲高い声が響く。

《武琉君はいますか? 何度か電話をしたけど繋がらなくて》
「……不在にしていますけど」

 胸の奥がざわざわとするが、なんとか平静を装って答える。

《えっ、帰ってないの? おかしいなあ》

 早織の口調はどこか意地悪さを含んでいるようだった。きっと彼女はわざと香澄を不快にしようとしているのだろう。

 そんな挑発に引っかかってはダメだと分かっているけれど、心は鋭いものに突き刺されるように痛み冷静ではいられない。

(単なる嫌がらせに違いない。今日はフライトなはずだもの)

 香澄が武琉から聞いたスケジュールでは、今日はまだ帰国していないはずだ。

 けれど早織が続けた言葉で、香澄の顔は青ざめた。

《武琉君、いつも私のところに来てばっかりだから、ずっと家に帰っていないでしょう? だから私が今日は帰ってあげてって頼んだんだのに》

(どういうこと?)

 彼はスケジュールの変更を香澄に共有してくれなかったのだろうか。

《だって新婚なのに外泊ばっかりじゃ、香澄さんが可哀そうだから。私、気を使ってあげてるんですよ? 香澄さん今寂しいですよね?》

 くすくすと香澄をあざ笑う声が聞こえてくる気がした。

 香澄はざわめく心を落ち着かせようと深く息を吐いた。

「蛯名さんに気にして頂かなくて結構です」
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