あなたとは合わないと思っていたけれど
 もしかしたら彼も、ここ最近の気まずさを解消したくて、お土産を渡すという形で歩みよろうとしてくれているのかもしれない。

 あのキスはなかったことにして、元の良好な関係に戻したい。そう考えているのかもしれない。

 それなら香澄もその気持ちを受け止めたい。

「本当にうれしい……でも使うのがもったいないかも」
「使う為に買ったんだ。仕事に持っていって」
「うん、そうするね」

 ここ最近はなかった穏やかな空気が漂っている。

 武琉も今夜はすごく優しい。

 もしスケジュールの嘘を吐かれていたのだとしても、もういいと思った。

(蛯名さんのことだって、きっと何かの事情があったのだろうし、悪気はなかったはず)

 彼は悪意で騙すような人ではないと信用している。

 香澄が優しい気持になっているからか、武琉もとても穏やかだ。

「香澄、今度休みを取って旅行に行かないか?」
「え?」

(旅行? どうして急に?)

 香澄は戸惑いを覚えたが、すぐに先日の義母の言葉を思い出した。

『武流、新婚旅行は無理でも一泊旅行くらいは香澄さんを連れて行きなさい。毎日仕事ばかりじゃ夫婦仲が悪くなるわよ』

 きっと武琉は儀実家に不仲だと疑いを持たれないように、旅行に行こうと言っているのだ。
 香澄は納得して頷いた。

「うん。休みを合わせないとね」
「よし、じゃあ場所を決めようか。香澄はどこに行きたい?」

 武琉は乗り気な様子で旅行情報を検索しはじめる。でも香澄はもっと張りきっている。

「海でのんびりもいいかも。海外も近場ならいけるし。武琉さんはどこがいい?」

 外出をするのにこんなに喜んでいるのが不思議だ。けれど香澄は舞い上がる気持ちを抑えられなかった

「香澄が行きたいところでいいよ」

 武琉は寛容にそう言った。香澄はにこりと目を細めた。
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