あなたとは合わないと思っていたけれど
 七月中旬。香澄と武琉は、羽田空港から北海道に向かって出発した。

 香澄は前日から舞い上がる気持ちを抑えられずにいた。菜恵に背中を押して貰ったことで、素直になろうと決心したのだ。

 そのときの武琉の反応が怖いけれど、この気持ちを秘めたまま契約を全うするのは難しい。
 もし駄目だったら潔く諦める。

 旅先で気まずくなるのは嫌なので、告白は旅行の最後でタイミングを見てしようと思っている。それまでは旅行を楽しむと決めた。
 飛行機の席は当然隣同士。香澄は予約した席に腰を下ろした。

「飛行機に乗るの久しぶりだから、少し緊張するかも」

 香澄の呟きに、武琉がすぐに反応した。

「そうなのか?」

 ASJの社員が飛行機を利用する際はかなりの割引が受けられる。航空会社勤務の特典だ。

 だからプライべートの旅行などであちこち飛び回る社員が多い。

「あまり乗る機会がなかったから」

 香澄は生粋のインドア派。旅行に行きたいという気持ちがなかったから、得だと分かっていても利用機会がなかった。遠出をするのは実家に帰省するときくらいで、それも電車利用なので、前回乗ったのは大分前だった。

「香澄は家が大好きだもんな」

 武琉が微笑む。引きこもりだと言わないところに彼の優しさを感じる。

「武琉さんも、客席は新鮮だったりしない?」
「そうだな。今日は乗客に徹して、高度はどうとか余計なことは考えないようにするよ」
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