あなたとは合わないと思っていたけれど
 武琉としては実家の目を誤魔化す為の旅行だろうと分かっているけれど、彼の優しさ溢れる笑顔を見ていると、希望を持ちたくなってしまう。

(だめだめ、調子に乗らないようにしないと)

 武琉は元々人付き合いが上手いし、朗らかなタイプだ。誰と一緒に至って旅行を楽しむだろう。

 都合よく受け取って舞い上がらないようにしなくては。そうでないといざ告白をしてよくない反応だったとき立ち直れない。

 当たって砕けろ、これくらいの心意気で望まなければ。

 そうは言ってもこうして武琉の向き合っていると、香澄の心はときめいて落ち着かない。

「香澄、大丈夫か?」

 口数が減った香澄を心配してくれたのか、武琉が優しく尋ねた。

「大丈夫。この二日間楽しかったなと思い出してたんだ」
「そうだな。俺も楽しかったよ……また一緒に来ような」
「……うん」

 武琉は社交辞令で言っているのかもしれない。それでも思わずにはいられなかった。

 彼も同じ気持ちだったらいいのにと。

 満足だったディナーを終えて部屋に戻ったのは午後九時過ぎだった。

 順番にバスルームを使うことになり、香澄は時間がかかるので武琉に先に入って貰った。

 二十分ほどで出てきた彼のバスローブ姿を見た瞬間、香澄は胸を掴まれたように動揺を感じた。

(ど、どうしよう)

 湯上りの姿がなんとも言えず色っぽい。バスローブ姿だから逞しい体がいつも以上にはっきりと分かる。同居をしていても、彼のこんな姿は見たことがなかった。

(目の保養なんだけど、見ていられない!)

 香澄は慌てて目を逸らし「私も入ってくるね」と言い残しバスルームに向かった。

 彼の姿に見とれて顔を赤くしているなんて絶対に気づかれたくない。ばれたらひかれてしまうし、警戒されるかもしれない。
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