あなたとは合わないと思っていたけれど
香澄は心の動揺を宥めようといつも以上に丁寧に体を洗い、時間をかけてから部屋に戻った。
武琉はリビングのソファに腰を下ろしていた。バスローブ姿からパジャマに着替えを済ませている。彼は扉が開く音で香澄に気づき振り返る。
「ワインを空けておいた。少し飲まないか?」
「うん」
武琉の誘いの応じて香澄は彼の隣に少しの距離を置いて座った。近すぎず遠すぎない絶妙な距離感だ。
彼に渡して貰ったワインをゆっくりと飲む。
「美味しい」
「よかった。香澄が好きそうだと思って選んだんだ」
香澄の好みは甘すぎず爽やかなテイストだ。このワインは完璧に当てはまっている。
「ありがとう。私の好み覚えてくれていたんだね」
それは香澄に関心を持ってくれているということだ。仮に義務感からだったとしてもうれしい。
「武琉さんも今日は飲むの?」
彼が飲酒している姿を見る機会は少ない。せいぜいつきあいで軽くグラスに口をつける程度だ。
「ああ。仕事柄控えているけど、本当は結構好きなんだ。せっかく旅行に来たんだから今夜は楽しもうと思って」
「そうだね」
後はもう寝るだけだと思っていた。この時間自体が香澄にとってサプライズのようだ。
「疲れてない?」
武琉が優しく聞いた。今日はあちこち見て回りずっと外に居たから気を使ってくれているのだろう。
「すごく楽しくて疲れを忘れちゃったよ」
「それならよかった」
「私、今まで一泊旅行すらあまり気が進まなかったの。家で好みのコーヒーを入れたり、料理をしたり、映画を見る方がずっと充実した感じがして。でも武琉さんと結婚してから、少し好みが変わったみたい。こんなに楽しんだって知ることが出来てよかった」
感じたままの気持ちを伝えると、武琉は表情をやわらげた。