あなたとは合わないと思っていたけれど

「俺も香澄と結婚してから変わったよ。寝に帰るだけの家がとても居心地がよくて早く帰りたいと思うようになった。俺にとって料理は作業でしかなかったのに、楽しそうにつくる香澄を見ていると、こういうのもいいなと幸せな気持ちになった」
「武琉さん、私の引きこもりをすごく前向きに表現してくれてるね」

 香澄は幸せを感じて目を細めた。

「引きこもりだなんて思ってない。香澄は俺の生活に彩りを添えてくれた」

 思ってもいなかった彼の言葉を聞いた香澄は、瞬きをした。

「……そんなふうに思ってくれているとは思わなかった」
「ずっと思ってた」

 武琉は一瞬ためらったように言葉を切り、再び口を開いた。

「でも香澄と契約結婚をしたとき、こんな気持ちになるとは思っていなかった」

 それは香澄も同じ気持ちだった。ただ彼が言うこんな気持ちとは、どんな意味なのだろう。

(よい意味だといいんだけど)

 もし、香澄と同じ気持ちを持ってくれていたら――。

 不安と捨てきれない期待を胸に香澄は武琉を見つめた。

「私も想像していたよりもずっと居心地がよくて幸せを感じてる」

 言葉にした途端、香澄の胸に切なさが広がった。

 武琉への想いが溢れていく。

 いっその事、今気持ちを伝えてしまおうか。

 彼が好きだと、契約ではなく心を寄せていると打ち明けてしまおうか。

 何事もなかった顔をしているけれど、あのときのキスが忘れられないと。

 香澄は旅行中にギクシャクしないように、明日、告白しようと思っていた。

 でも今がそのときではないだろうか。

 ぎゅっと手の平を強く握る。にわかに緊張がこみあげて体が震えそうになる。

「武琉さん……」

 緊張のあまり掠れた声を出したそのとき、武琉の声が耳に届いた。

「香澄に伝えたいことがあるんだ」

 それは何かの覚悟を決めたような凛とした、それでいて優しさを感じる声だった。
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