あなたとは合わないと思っていたけれど
「香澄のことをよく知りもしないのに勝手に決めつけて中傷するのは止めろ」

「でも香澄さんの味方をするのは演技でしょ? 私調べたんだよ。ふたりは恋愛結婚なんかじゃない。だって誰もふたりが付き合ってることを知らなかった。そんなことあり得る? 武琉君くらい目立つ人が全員の目を誤魔化して隠しきれるわけないよ」

 香澄はごくりと息をのんだ。

 それは早織が言うことが正しかった。武琉と香澄には交際どころか、同僚としての付き合いの事実すらない。本気で調べたら違和感を持たれてもおかしくないのだ。

「……俺と香澄の関係は早織には関係ないことだ。距離感を間違えないでくれ」
「嫌! 私は納得いかないから……香澄さん、調子に乗らないでよ! 武琉君はあなたのことを本気で好きなわけじゃないから」

 早織はそう言い捨てると逃げるように走り去って行った。
 武琉は心配そうに香澄を見つめる。

「大丈夫か? 早織が悪かった」
「……大丈夫だよ、謝らなくていいから」

 本当は大丈夫ではなかった。

『武琉君はあなたのことを本気で好きなわけじゃないから』

 そう言われたとき、胸が突きさされたかのように痛んだ。武琉の気持ちを信じていないからではなく、早織は人前であれ程取り乱して叫ぶほど武琉に執着している。
 
 その事実に不安を感じた。
 
 楽しかった旅行気分もすっかり萎れて、気まずさを感じたまま自宅に帰った。
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