あなたとは合わないと思っていたけれど
 彼女にも知ってもらうことで、安心させたかった。ただ早織の立場も考えて、同席まではしなかった。

 香澄が先ほどまで早織が座っていた席に移動してきた。

「武琉さん、大丈夫?」

 そう言って眉を顰め心配そうに武琉を見つめる。

「ああ。香澄は納得できたか?」
「うん。幼馴染に厳しいことを言うのは大変だったでしょ? 私の為にありがとう」
「いいんだ。これはけじめをつけないといけないことだから」

 心配させないようにそう言ったが、香澄の表情は浮かないままだ。
 しばらくすると彼女が言った。

「……もし蛯名さんが私たちのことを認めてくれたら、またやり直せるかもしれないね。そのときは私も仲よくするように努力するから」

 それは彼女の優しさだった。早織の態度に不満を持っているはずなのに、武琉の気持ちを思って譲歩しようとしてくれているのだ。

「ありがとう。でも俺は香澄の気持ちが大切なんだ。俺の前では無理をしなくていいから」
 武琉がそう伝えると、香澄は柔らかく微笑んだ。

 武琉と両想いになり、香澄は充実した日々を送っていた。

 休日は武琉と外出したり、家でゆっくり過ごしたり。ふたりで相談して決めているけれど、ほとんど香澄の希望が通る。

 武琉は香澄を甘やかして過保護すぎると思うくらいだが、彼はそうしたいらしい。

 そんなふうに幸せを感じてすっかり油断していたある日の仕事帰り。
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