あなたとは合わないと思っていたけれど
 香澄は最寄り駅のスーパーに寄り、食材を買い込んだ。

 今日は武琉が休日で、香澄の帰りを待っている。

 彼は最近香澄の影響で料理を始めて、今夜はグラタンに挑戦すると張り切っていた。

 香澄はグラタンに合う料理を二三品、つくろうかと思っている。

 ふたりでキッチンに立つ時間を、香澄はとても気にいっている。

(楽しみだな……)

 ところが買い物を済ませて足早に自宅マンションに向かう途中、見知らぬ男性が香澄を邪魔するように道を塞いだ。

 細い歩道で、空いたスペースを通ることが出来ない。

 男性は二十代後半くらいの見た目で、かなりの長身でがたいもいい。

 香澄は不安を覚えながら、控えめに問いかけた。

「あの、すみません、通していただけますか?」

 しかし返ってきたのは、苛立たし気な目線だった。

 直感で常識が通じない危険な相手だと感じた。辺りは薄暗く、ついてないことに、他の通行人がいない。香澄はすぐに踵を返して駅に戻ろうとした。遠回りになるが他の道に向かうしかない。

 ところが男性が香澄の腕を掴んできた。

 香澄は息を飲み、硬直した。

「な、なにをするんですか?」
「お前、西條香澄だろ?」

 その瞬間、心臓がひやりとした。

(私を知ってる?)

「お前に少し痛い目をみせろって頼まれてるんだ」

 良心がなく軽薄な眼差しが香澄を貫く。恐怖で心臓がばくばくと音を立てた。

「だ、誰からそんなこと」
< 164 / 171 >

この作品をシェア

pagetop