あなたとは合わないと思っていたけれど
「答えるわけないだろ」

 掴まれた腕に力が入った。

(この人、本気だ)

 生命の危機と思うほどの恐怖を感じた。香澄はパニックになり、持っていた買い物袋を男の顔に向かって放り投げていた。

 男が怯み手を開放される。その瞬間、夢中で駆け出していた。

 香澄は完全なインドア派だが、意外と走るのが速い。

 大して男はあまり機敏さがないようで、後ろから大声を上げているが追いつかない。

(このまま逃げ切る)

 そう希望を抱いたそのとき、前方から見覚えのある人影が近づいてきた。

(……蛯名さん?)

 なぜ彼女がここに居るのかと混乱する。かといって止まる余裕はない。

「蛯名さん逃げて、近くに変質者がいるの!」

 思うところのある彼女だが、危険人物がいると知りながら放置はできない。

 親切心だった。ところが早織は慌てることなくその場で立ち止まり、立ち去ろうとした香澄の腕を掴んできた。

「なにするの?」

 驚く香澄に早織はにやりと笑う。

「分からないの?」
「え?」

 戸惑ううちに男が追い付いてきた。

「早織、そいつを捕まえろ」
「もう捕まえた」

 香澄は信じられない想いで目を見開いた。


(まさかふたりは知り合いなの?)
 いやそれどころか、男をけしかけて香澄を傷つけようとするのは……。

 早織が残酷な笑みを浮かべた。

「あんたがどうしても許せない。消えて貰うから」
< 165 / 171 >

この作品をシェア

pagetop