あなたとは合わないと思っていたけれど
「なんとか。武琉さんが来てくれたから」
「よかった、間に合って」

 武琉が香澄をぎゅっと抱きしめる。

 狂暴そうな男の前では平然としていた彼の体が、今は少し震えている。

(本当に心配してくれていたんだ)

「来てくれてありがとう……でも、本当に早織さんを連れていかせてよかったの?」

 彼にとっては長年の情がある相手だ。

「いいんだ。彼女は許されないことをした。ここでしっかり決着をつけなければ、また香澄の身に危険が迫るかもしれない。香澄は彼女に同情する必要はない。自業自得なんだ」
「うん……もう忘れる」
「香澄、どこか痛むのか?」

 涙を流しはじめた香澄を見て、武琉慌てふためく。

「大丈夫。ただほっとして気が緩んだだけ」

「もうこんな目には合わせない。俺が絶対に守るから」

 武琉に強く抱きしめられて、香澄はゆっくり目を閉じた。

 早織と男は警察に連行されたが、香澄に被害がなかったこともあり、起訴はされなかった。男の方は風貌から犯罪歴があるかと思ったが、実際は早織の友人の成金息子だったらしい。

 香澄と早織たちは代理人を立てて示談をした。香澄の希望は今後の接近禁止だった。

 自分たち夫婦に関わらなければいい。

 早織は武琉に会えなくなるのは受け入れられないと激しく抵抗していたが、最終的には両親が出てきて、示談に応じた。
彼女はASJを退職し、両親の手で海外に送られることになった。

 警察沙汰になったことは、瞬く間に知れ渡り、戻ってきても早織の居場所はないだろうとのことだった。

 不安の種だった早織は、こうして姿を消して、香澄はようやく安心できるようになったのだ。
 
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