あなたとは合わないと思っていたけれど
 香澄は荷物を整理するとホテルを出て、周辺を散歩してみた。

 慣れない海外でひとりの状況でこの行動は、これまでの香澄にしてはかなり大胆なものだ。

(武琉さんの影響で少し行動的になったのかも)

 自宅で好きなことをして楽しむ時間が好きなのは相変わらずだが、視野が広がりいろいろなものに興味が湧いてきた。

 ホテルから少し歩いて海辺に向かう。美しい光景に目を細めて見惚れていると、明るい声をかけられた。振り向くと若い男性がいてしきりに何かを訴えている。

(なんて言ってるのかな?)

 香澄は英語はそこそこ理解できるが、現地語になるとまるで分からない。

 困っていると男性が近づき香澄の腕を取ろうとした。

(うそっ、変な人だったの?)

 今更のように焦っていると、男性をかわすように肩を抱き寄せられた。

「えっ……武琉さん?」

 見上げると武琉が香澄の肩をしっかりと抱き寄せ、少し不機嫌そうに眉をひそめて見下ろしている。

「大丈夫か?」
「うん」

 武琉は現地の男性に何かを伝えた。すると彼は焦って逃げ去ってしまう。

「なんて言ったの?」
「今のはナンパだ。彼女は俺の妻だから手を出すなって言ったんだ」
「そうなんだ」

 香澄が頷くと、武琉が呆れたような顔をした。

「どうして俺を待たなかったんだ?」
「武琉さんは時間がかると思ってたから」
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