あなたとは合わないと思っていたけれど
「結婚といっても形式的なものだ。同居は必要だがお互い干渉しない。夫婦らしく振る舞うのは親戚付き合いのときくらいであとはお互い自由」
「お互い干渉しない……」

 香澄はしばし考え込んだ。今聞いた話を頭の中で整理する。

(ええと、つまりしつこくお見合いを強要されないようにする為に、結婚したふりをするってこと?)

 菜恵との会話の中で浮上した仮面夫婦というものになりたいのだろうか。

 あのとき、そんな結婚を希望する相手はいないだろうと結論したのに、現実に現れるとは。

 香澄は混乱しながらも、冷静であれと自分自身に言い聞かせる。

「あの、形式的な結婚なら、婚姻届けの提出はなしですか?」
「いや正式な手続きは必要だと思ってる。式は仕事の関係だと理由をつけて先延ばしには出来るが、届け出なしはすぐにばれてしまうだろうからね」
「まあ、そうですよね」

 香澄の両親も、結婚しましたと報告するだけでは信用しないだろう。式をしないなら証拠が必要だ。

(契約結婚か……)

 かなり驚いたが武琉の言いたいことは理解した。そのうえで香澄にとってもそれほど悪い話ではない。干渉し合わないという約束なら、今と大して変わらない生活をしながら、煩わしさから解放されるから。

 しかし、いくら実際の夫婦生活がないと言っても、周囲に怪しまれないようにするために正式に届けを出すなら同居も必要だろう。そう考えると簡単に返事はできない。

 香澄はバツイチになったら戸籍に傷がつくとは考えないタイプではないけれど、結婚には慎重にならざるを得ない。勢いで返事をしたら絶対後で後悔する。

(冷静に考えないと)

「急なことで驚かせてしまったとは思うが、前向きに考えて欲しい。ただ時間がなくてあまり長くは待てないんだ」

 武琉の顔に、申し訳なさそうな表情を浮かぶ。

(天谷さんもかなりうるさく結婚しろって言われてるのかな?)

 こんな提案をしてくるくらいだ。もしかしたら香澄以上に追い詰められているのかもしれない。
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