あなたとは合わないと思っていたけれど
「そうだな。ただちょうどいいと思わないか? 今言った通り俺はほとんど家にいつかないから、自宅でゆっくり過ごしたい西條さんの邪魔にはならない。俺の自由を認めてくれる他には何も強要しないから、上手くいくと思うんだ」

 武琉の言葉にはなかなかの説得力がある。聞くにつれ香澄にとって彼は最適な結婚相手のような気がしてきた。

 今の暮らしを変えずに煩わしさから解放される。そう思うと心が揺らぐ。

(いや、だめだめ、結婚を簡単に決めるわけにはいかないでしょ)

 香澄は流されてつい頷きそうになった自分を戒めた。
 結婚願望はないと言っても、人生の大きな選択だ。プライベートで適当な香澄でも簡単に決められることではない。

「あの、すみません……少し時間を頂けませんか? 急な話で頭の中が混乱していて」

 動揺が大きい香澄に、武琉がにこりと微笑む。

「ああ。でもさっきも言ったけどあまり時間がないんだ。申し訳ないけど」
「私が断った場合は別の人を探すんですか?」
「そうしたいけど、西條さんみたいな女性とはなかなか巡り合えないから、別の方法を考えるしかないかもしれないな」
「……そうですか」

 武琉は時間がないと言いながらも、香澄の目からは焦っている様子は見られず、優雅に食事を続ける。

 食事のマナーといい居住まいといい、振る舞いから品の良さが滲み出ている。
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