あなたとは合わないと思っていたけれど

「将来のためにも結婚してしっかりした家庭を持ってほしいの。藤堂さんはとても几帳面で真面目だそうだから、きっと安定した秩序ある家庭を築けるわ」

 母は香澄の無言の反抗を気にも留めず、嬉しそうに話し続ける。
 今回の相手は余程母の目にかなったのか、お見合い相手のよいところをアピールして、香澄の気持ちを盛り上げようとしているのが伝わってくる。
 しかしそれはまったくの逆効果だった。

(几帳面で真面目? 一番苦手なタイプだよ)

 会うまでもなく、絶対に合わないと確信できる。だって自分とは正反対だから。

 香澄は大学卒業後に国内有数の航空会社『エアスカイジャパン』(通称ASJ)に就職した。入社後二年間は羽田空港でグランドスタッフとして現場を経験した。現在は本社の調達部で、主に航空機の新機体の契約を担当している。

 新たな機体を運行するまでは資材調達や運航テストなど多くのプロセスを経て、数年がかりのプロジェクトになる。
 プレッシャーがかかる業務でストレスもあるが、香澄は責任感を持って日々全力でこなしている。普段から細かく確認を取りながら業務を進めているので、これまで大きなミスをしたことはない。そのため仕事に関しては真面目で几帳面なタイプだと周囲から思われているかもしれない。

 けれど本来の香澄はマイペースでのんびりした人間だ。

 自宅では時間に追われず自由に過ごしたい。プライベートに秩序なんて必要ないと思っている。

 自分好みに整えたインテリアの部屋に帰り、着心地が楽なルームウエアに着替えて、丁寧に淹れたコーヒーを飲みつつ、まったりと過ごすときが香澄にとって至福のひとときなのだ。

 やる気に溢れているときは凝った料理を作ったり、趣味の映画を見たり、家の中には楽しみに溢れていて外に出たいなんて思わない。

 疲れていたり気分が乗らないときは、大きなクッションに寝転がって気が済むまで体を休める。
 そうやって好きなことをしてのんびり寛ぐひとりの自由な時間は、香澄にとって絶対に必要なもの。この大切な時間を持つために日々懸命に働いているともいえるくらいだ。

 でも結婚して誰かと一緒に暮らすようになったら、そんなふうに気ままに過ごすことはできなくなるだろう。
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