あなたとは合わないと思っていたけれど
(家のインテリアは私の自由にさせてくれるのかな。そもそもどこに住むことになるんだろう)

 持ち帰って考えると言ったわりには、必要な情報を得ないまま別れてしまった。

 失敗したと反省しながらリビングに戻る。その瞬間騒がしい音が耳に飛び込んできて、香澄は思い切り眉をひそめた。
 不満を隠さない眼差しをリビングと続いている寝室の壁に向ける。香澄は壁の向こうを透けて見るような険しい目つきでじっと見つめた後、苛立たしさにため息を吐いた。
 
 三日前に隣室に新たな住人が住み始めた。引っ越しの挨拶には来なかったからどんな人が住んでいるのかは分からないが、若い男女が頻繁に出入りをしているようでとにかく騒々しい。
 
 夜の十時を過ぎてもお構いなしに騒いでいる。最悪なことに寝室の向こうなので、睡眠を妨害されている。

 友人と楽しむのはいいけれど、ちょっと常識を外れた騒ぎ方だ。

 香澄の大切な癒しのひとときに、陰が差した気がする。初日は引っ越し祝いでもしているのかなと思っていたけれど、三日連続だ。もしかしたらこのままずっとうるさいかもしれない。そう思うと憂鬱さがこみあげてきた。

 香澄にとって住環境は何より大切だ。このマンションだって社員寮を出た四年前に散々迷って決めて、過ごしやすいように手をかけてきた。

 それらが台無しにされてしまったようで悲しくなる。かといって隣の部屋に文句を言いに行く勇気は出ない。
 最近は物騒なニュースが多い。正当な抗議であっても、逆恨みをして刺されてしまったなんて話も聞いたことがある。隣の住人が悪い人とは言わないけれど、どんな人か分からない以上用心するべきだ。

「……でもどうすればいいのよ」

 気が進まない結婚を迫られるだけでもうんざりなのに、騒音問題まで。
 今は何もかもが上手くいかない。

(契約結婚した方がいいのかな)

 この状況から抜け出すためには、香澄も多少のリスクを負う必要があるかもしれない。考えてみれば武琉は契約結婚をするのに安心な相手だ。

 ほとんど知らない相手とはいえ、同じ会社で働いているというだけで安心感がある。

 いきなり騙された、なんてことにはならないだろう。

 香澄の希望する条件を出してすり合わせをしてみたらどうだろう。具体的な条件を詰めてから検討してもいいかもしれない。

「……とりあえず書き出してみようかな」

 香澄はヘッドホンをつけて騒音を遮断してから、ローテーブルの前にぺたんと座り希望の条件を書きはじめた。
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