あなたとは合わないと思っていたけれど
その後、シンガポールへのフライトで、野崎菜恵と同じチームになった。
国際便はステイ――現地滞在時間が長いのでスタッフ同士で食事に行くなど、パイロットとCAの接点も多くなる。菜恵とは一日目の夕食の席で隣同士になった。
彼女は先日の遭遇に気まずさを感じているようで、話題は自然とそのときのことになる。武琉が少し会話を聞いてしまったと振ると、菜恵は気恥しそうな何とも言えない表情になった。
「やっぱり聞こえていたんですね。壁が薄いことを失念して色々話してしまって、お恥ずかしいです」
「こちらこそ、盗み聞くような形になって申し訳ない」
「いえいえ、私たちが場所も考えずに勝手にしゃべったことなので」
菜恵は今後は周囲に気をつけると反省しているようだった。しかし武流が聞きたいのは香澄のことだ。
「一緒にいた西條さん、第一印象とのギャップが激しくて驚いたよ」
「あーそうなんですよね。会社や外だとしっかりしなくちゃと気合を入れているんですけど、本当はかなりマイペースな子なんです」
菜恵はしっかりしているので、香澄の個人情報に当たる部分を漏らすことはなかったが「よくある話で、親からお見合いを勧められているみたいですよ」と言っていた。
やはり香澄は武琉と同様、困っている状況にあるらしい。
それから数日後、所要で本社に寄った帰りに、思いがけず香澄の帰宅時間に居合わせた。
考えるより早く声をかけ、食事に誘っていた。
香澄はかなり驚いたようだ。彼女は家で過ごすのが好きなようだから応じてくれるかは分からなかった。
実際誘ったときの彼女の顔は困惑に溢れていた。もしかしたら迷惑だったかもしれないが、それでも同僚としてのよしみか彼女は応じてくれた。
契約結婚を提案したときの香澄は、取り繕うこともできないくらい驚愕していた。
彼女は結婚を嫌がっている割りには、そういった方法は考慮していなかったらしい。
武琉はお互いの利点を説明して、彼女の返事を待つことになった。性急ではあるが、この機会を逃したくなかった。