あなたとは合わないと思っていたけれど
三章 契約結婚スタート
香澄は契約結婚を決心したあと、菜恵にだけは真実を伝えることにした。
絶対に秘密で誰にも聞かれるわけにはいかない内容だ。菜恵に香澄のマンションまで来て貰い、駅前の総菜屋でローストビーフとサラダとグラタンを買って、夕食を食べつつ報告をすることにした。
「菜恵……突然なんだけど、天谷さんと結婚することにした」
「はあっ?」
驚愕が大きすぎるのか、菜恵は箸からローストビーフを落としてしまった。そんな彼女に急ぎ事情を説明する。
話が終わると菜恵驚きを引きずったようなため息を吐いた。
「契約結婚って……菜恵と天谷さんが普通に結婚するって聞いた瞬間も、いつの間にそんなことにって驚愕したけど、契約結婚ってのも信じられない。急展開すぎるし突っ込みどころが多すぎる」
「そうだよね。自分でも驚いてる。でも条件としてかなりいいかと思って。私は彼のことを気にせず好きに生活していいし、期間限定で一生続くわけじゃないから。それに彼だったら両親も納得するだろうし」
香澄の両親は娘の結婚相手の職業などスペックに拘る方だ。結婚相手は将来性があり安定した仕事に就いている人がいいと常日頃から言っていた。
だからただ結婚相手は誰でもいいという訳ではない。
菜恵は納得したように頷いた。
「天谷さんなら反対どころか大歓迎だろうね。エースパイロットだし、実家も太いんだもの」
「うん。噂通りかなり由緒正しい家だよ」
武琉の実家が経営する天谷物産は、知名度が高い大企業。天谷家自体が歴史のある家柄のようで、香澄の実家とは違う本物の上流階級だ。
彼は次男なので会社を継ぐことはないそうだが、それでも、もし身分制度があった時代だったら、結婚なんて許されなかっただろう。
「香澄、玉の輿じゃない! ねえ、もうちょっと喜んだら?」
菜恵がノンアルコールワインを飲みながら言う。
「でも彼の家の財産は私には関係ないよ。生活費は出して貰えるけど、契約結婚だからプレゼントなんてないし、離婚したときの財産分与もなしだから」
少しウキウキしていた様子の菜恵が、香澄の現実的な返事を聞いて真顔になった。
「そうだった」
「でも会社では普通の夫婦のふりをするから、菜恵も合わせてね」