あなたとは合わないと思っていたけれど
 香澄は小さなため息を吐いてから口を開く。

「ここに来る前に母親から電話があったんだ。またお見合いしろって……」
「えっ? この前断ったばかりじゃなかった?」

 菜恵が目を丸くして言う。

「それが、また別の人を見つけてきたみたいで」
「うわあ、お母さん諦めないね~これで何度目?」
「もう覚えてないよ」

 わざわざ数えていないが、二十人は超えているのではないだろうか。

「それだけ紹介があるのもすごいよね」
「親戚とかも含めて、人脈は結構広いみたいで」

 香澄の実家は山梨にある。昔は大地主で土地をたくさん持っていたが、今は税金対策などで多くを手放した。それでも狭い地域ではまだそれなりの影響力はある。香澄の両親は教師として働いているので、その縁もあるようだ。

「でも香澄は結婚はまだ考えられないんだよね」
「うん。だって今の生活に何の不満もないからね。結婚した方がストレスが増えて人生の満足度が下がりそうだよ」

 今の自由な暮らしを望んでもいない相手と結婚する為に手放すなんて、罰ゲームのようだと感じる。

 母の価値観では受け入れられないのだろうが、今時女性ひとりで生きていくのに大した不自由はないのだから、独身で問題ない。

「たしかに結婚したら今より制約は増えそうだよね。出産したら仕事もセーブする必要があるだろうし。私もこの人だって相手じゃなければ結婚はできないかな」
「そうでしょ? 年齢や世間体を気にして、無理やり相手を探してまでお見合いする必要なんてないんだよ」

 もし結婚自体がしたいなら積極的にお見合いをするのもいいのだろうが、香澄はそうではないのだから。

 愚痴を言い合っていると釜めしが運ばれてきた。いい匂いが漏れ出ている木蓋を開けた途端、湯気がもわっと上がった。
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