あなたとは合わないと思っていたけれど
「会社への報告はそれぞれ上司に行うんですよね?」
「それがいいと思う」

 香澄は頷いた。

「結構な噂になりそうですね」

 香澄が結婚したところで同部署の同僚が驚くくらいだろうが、武琉の結婚となったら大きなニュースになりそうだ。

 もし香澄が空港勤務だったら、かなりの注目を浴びていただろう。

(本部勤務でよかった)

 契約結婚の実情を知られないために、会社では普通の恋愛結婚ということにする。聞かれたら職場の飲み会で知り合ったと答えることにした。両親への対応と同様に詳しい設定は作らない。嘘をついたら何かのきっかけでぼろが出てしまいそうだからだ。

 それくらいなら、曖昧にかわした[悠森43]方がいい、というのが武琉の考えだ。

 香澄もとくに反対することもないから承知した。

「それから敬語はなしにしよう。すぐには難しいかもしれないが、今のままだとさすがに不自然だから」

 たしかに、と香澄は納得した。

「早く慣れるようにします。呼び方はどうしますか?」
「俺は香澄って呼ばせてもらいたいな。呼び捨てだけど大丈夫?」

 武琉は少し考えてから言った。

「はい。では私は武琉さんと。いいですか?」

 距離感と年齢から呼び捨てるのは躊躇いがある。

「いいよ」

 武琉は僅かに笑った。

「そうだ。俺のスケジュールを送っておくよ」
「はい。でも、いいんですか?」

 意外だった。彼は結婚に縛られ干渉されるのが嫌なはずなのに。

「大丈夫。俺がいつ帰ってくるか分かってる方が、香澄もリラックスできるだろ?」

「ありがとうございます」

 彼が言う通りなので否定しなかった。正直すぎたかもしれないと後悔したが、武琉が気を悪くした様子はなかった。
 必要な打ち合わせは終了し、その後はそれぞれ自由に過ごした。

 初めてふたりで過ごす夜は、本当に何事もなく、顔を合わせることもなく静かに更けた。
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