あなたとは合わないと思っていたけれど
 心底驚いているその様子に、武琉は小さく笑った。

「ただいま」
「お帰りなさい……」

 香澄は戸惑った様子でそう返事をすると、すぐに上半身を起こした。ビーズクッションの上で正座をして武琉を見上げる。

「あの、今日帰る予定でしたっけ?」

 まだ混乱している様子の彼女に頷く。すると香澄の顔に気まずさが広がった。

「ごめんなさい。明日帰宅だと勘違いしていました。疲れて帰って来たのにこんなに散らかしてしまって、本当にごめんなさい」
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 香澄はローテーブルの上に目を向けた。張りきってひとり飲みをしていたのは隠せないと判断したのか、まるで悪事がばれたときの犯人のような顔をしている。

「構わないよ。ここは君の家なんだから、俺に気にせず好きに過ごしていい」
「そうかもしれないけど……」

 おそらく酔っ払って寝ていたところを見られたのが気まずいのだろう。香澄がもごもごと何かを言おうとしている。

「これ、自分でつくったのか?」

 武琉はさっき抱いた疑問を口にした。香澄は「はい」と頷いた。

「料理が得意なんだな」
「得意って程じゃないです。自分が食べたいものしか作れないし。それに毎日自炊してるわけでもないんです。本当に気が向いたときだけ」

 香澄は謙遜しているが彼女の料理は本格的に見える。

「いや、大したものだよ。俺は自炊の経験が少ないから詳しくないけど、かなり手間がかかっているんだろう?」
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